戦後の裏社会の実態を描いた問題作
「仁義なき戦い」は1973年に東映によって映画化されましたが、原作はヤクザの組長だった美能幸三の獄中記です。
美能はこの獄中記を他人に読ませるつもりはなかったものの、内容の面白さに興味を抱いた作家から出版を持ちかけられた際、登場人物をすべて実名にすることを条件に雑誌掲載を了承しました。
「仁義なき戦い」の題名で雑誌「週刊サンケイ」に掲載された獄中記にはヤクザ以外にも裏社会と関わりがあった政治家や芸能人などがすべて実名で記されていたことから大きな反響を呼び、「週刊サンケイ」の編集部や出版社は何度も脅迫されたと言われています。
戦後の混乱から朝鮮特需を経て裏社会で拡大するヤクザ組織の実態を当事者の視点で赤裸々に描写した内容として高く評価されました。
それまでの常識を翻した意欲作
「仁義なき戦い」が公開当初から高く評価され、後の映画界に大きな影響をもたらした点として徹底したリアルな描写が挙げられます。
それまでのヤクザ映画は「チョンマゲを取った時代劇」と言われるほど虚構性が強く、ヒーロー映画としての側面もありました。
しかし、「仁義なき戦い」は後に「実録物」と称される、実話を基にした過激な描写が特徴でした。
広島抗争など実際に起きたヤクザ同士の争いを題材にした他、登場するヤクザのほぼすべてが金に汚く、強い者には媚びて弱い者には暴力を振るう卑しい人間として描かれていたのです。
「ヤクザ映画は義侠心を持つヒーローが活躍する映画」という、それまでの常識を翻した内容は強いインパクトがありました。
また、ヤクザが殺される際の描写も恐怖や苦痛でのたうち回るなど、過去の映画ではほとんど見られない無様な姿として描かれていたのもリアルな雰囲気があると注目された点です。
これらの点から「仁義なき戦いは創作ではあるがドキュメント映画とも解釈できる」と解説されたこともありました。
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